第十九回社会創造数学研究センター主催社会創造数学セミナーのご案内.

第十九回社会創造数学研究センター主催社会創造数学セミナーを以下の日程で開催します。
現在、展開しております日立北大ラボとの新概念コンピューティングに関連する講演会とご希望の先生、院生だけで参加する勉強会を企画いたしました。特に、関係者は奮ってご出席いただきますようよろしくお願いいたします。

なお、勉強会終了後に懇親会を予定しております。懇親会参加希望の方は、10月20日までにカートライト<msc_hitachi@es.hokudai.ac.jp>までメールでおしらせください。

□講演者: 青野 真士 慶應義塾大学 環境情報学部 准教授
http://web.sfc.keio.ac.jp/~aono/
□講演題目:アメーバ計算パラダイム:ウェットウェア、ソフトウェア、ハード
ウェアによる自然計算

場所:北海道大学電子科学研究所 北キャンパス1階会議室 http://www.es.hokudai.ac.jp/about/

日時:11月2日 (木) 13:00~14:00 講演会,14:00~17:00 勉強会

 

講演概要
自然現象を計算過程として捉えるところから新たな計算パラダイムを開拓したい。「自然計算(Natural Computing)」は、今世紀に入り研究が活発化している新しい学際領域である。そこでは、自然現象の観察に基づいて計算モデルを構築し、その本質を分析し普遍化した上で、自然現象を活用するハードウェアにより再実装することで、新たな計算や応用の可能性を追求するとともに、自然現象の新たな理解を生み出すことが目標となっている[1]。本講演では、自然計算を見通しよく説明するための話題として、講演者がこれまで数多くの共同研究者と取り組んできた、アメーバ状単細胞生物・粘菌(Physarum polycephalum) の情報処理原理を抽出したウェットウェア実験、ソフトウェア(アルゴリズム)開発、ハードウェア(物理デバイス実装)開発、およびそれらから拓かれる新たな応用技術の可能性に関する研究の成果を紹介し、今後の展開を議論したい。

我々は、自律分散型情報処理システムの典型例である粘菌アメーバの変形行動を光刺激により誘導することで「巡回セールスマン問題」の解を探索させる実験を行い、その観察を通して粘菌の解探索原理を探った[2-6]。そして、粘菌アメーバの振舞い、とくにその「時空間振動ダイナミクス」に基づく解探索プロセスを、常微分方程式で表現される振動子を複数結合した系としてモデル化した[7,8]。さらに、より抽象度の高い離散時間離散状態力学系モデルをいくつか構築し、それらが複雑な計算問題の解探索アルゴリズムとして優秀な性能を示すことを見出した。具体的には、解候補の数が問題サイズの指数関数として成長する「充足可能性問題」という組合せ最適化問題を解く「アメーバモデル」[9]や、確率的報酬を最大化するための意思決定問題である「多本腕バンディット問題」を解く「綱引きモデル」[10,11]を定式化し、それらが高速な解探索能力を有していることを示した。こうした高性能は、我々のモデルのユニークな属性である「並行性」や「時間相関や空間相関をもつ揺らぎ」に由来して生み出されることが分かってきた。これらの属性は様々な物理デバイスに固有のダイナミクスや揺らぎが、解探索計算に有効に活用できることを示唆している。そこから我々は、これらのモデルを様々な物理デバイスにより実装できることを理論的・実験的に示してき
た。実際、組合せ最適化問題を解く「アメーバモデル」は、デジタル電子回路(FPGA)、アナログ電子回路[12]、電子ブラウンラチェット(ナノワイヤ素子)[13]、量子ドットのネットワーク[14-16]などで実装できる。また、意思決定問題を解く「綱引きモデル」は、量子ドットのネットワーク[17,18]、単一光子[19]、原子スイッチ(抵抗変化型素子)[20]、レーザーカオス系[21]により実装できる。

こうしたソフトウェアやハードウェアを、実社会で有用な応用技術と展開するための研究開発も並行して行なっている。我々のモデルやデバイスが相互作用と揺らぎを活用して解を探索するプロセスというのは、まさに自然現象のダイナミクスそのものを表現しているとの認識から、計算による自然現象の理解を目指した研究を開始している。講演者らは、化学反応をいくつかの論理的制約条件を満足する解が探索される確率的過程として抽象化して表現することで、計算コストを抑えつつ、未知の化合物や反応経路を高速に探索できる可能性を秘めた新たな計算手法を提案した[22,23]。この試みが成功すれば、有機化学合成、材料科学、バイオインフォマティクス、創薬などの研究開発が大きく加速されると期待される。

本講演では、上記の研究開発の詳細と現状を説明しつつ、ナノスケールのデバイスの相互作用から生じる物理的なダイナミクスや揺らぎを積極的に活用することで、小型・低消費エネルギーで高速な計算を実現できる、新たな非ノイマン型計算パラダイムが近い将来現実のものとなる可能性を展望したい。

References
[1] 小林聡, 萩谷昌己, 横森貴, 山村雅幸, 木賀大介, 礒川悌次郎, ペパー フ
ェルディナンド , 西田泰伸, 角谷良彦, 本多健太郎, 青野真士, 自然計算への
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[2] M. Aono, Y.-P. Gunji, Beyond input-output computings: Error-driven
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[3] M. Aono, M. Hara, K. Aihara, Amoeba-based neurocomputing with
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[5] L. Zhu, M. Aono, S.-J. Kim, M. Hara, Amoeba‐based computing for
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[6] K. Iwayama, Y. Hirata, M. Aono, L. Zhu, M.Hara, K. Aihara, Decision-
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[7] Y. Hirata, M. Aono, M. Hara, K. Aihara, Spontaneous mode switching
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[8] M. Aono, Y. Hirata, M. Hara, K. Aihara, Greedy versus social:
Resource-competing oscillator network as a model of amoeba-based
neurocomputer, Natural Computing 10, 1219-1244 (2011).
[9] M. Aono, S.-J. Kim, L. Zhu, M. Naruse, M. Ohtsu, H. Hori, M. Hara,
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[10] S.-J. Kim, M. Aono, M. Hara, Tug-of-war model for the two-bit
problem: Nonlocally-correlated parallel exploration via resource
conservation, BioSystems 101, 29-36 (2010).
[11] S.-J. Kim, M. Aono, E. Nameda, Efficient decision-making by volume-
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[12] S. Kasai, M. Aono, M. Naruse, Amoeba-inspired computing
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[13] M. Aono, S. Kasai, S.-J. Kim, M. Wakabayashi, H. Miwa, M. Naruse,
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[14] M. Naruse, M. Aono, S.-J. Kim, T. Kawazoe, W. Nomura, H. Hori, M.
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[15] M. Aono, M. Naruse, S.-J. Kim, M. Wakabayashi, H. Hori, M. Ohtsu, M.
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[16] W. Nomura, M. Naruse, M. Aono, S.-J. Kim, T. Kawazoe, T. Yatsui, M.
Ohtsu, Demonstration of controlling the spatiotemporal dynamics of
optical near-field excitation transfer in Y-junction structure
consisting of randomly distributed quantum dots, Advances in Optical
Technologies, Article ID 569684 (2014).
[17] S.-J. Kim, M. Naruse, M. Aono, M. Ohtsu, M. Hara, Decision maker
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[18] M. Naruse, W. Nomura, M. Aono, M. Ohtsu, Y. Sonnefraud, A. Drezet,
S. Huant, S.-J. Kim, Decision making based on optical excitation
transfer via near-field interactions between quantum dots, Journal of
Applied Physics 116, 154303 (2014).
[19] M. Naruse, M. Berthel, A. Drezet, S. Huant, M. Aono, H. Hori, S.-J.
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[20] S.-J. Kim, T. Tsuruoka, T. Hasegawa, M. Aono, K. Terabe, M. Aono,
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245-259 (2016).
[21] M. Naruse, Y. Terashima, A. Uchida, S.-J. Kim, Ultrafast photonic
reinforcement learning based on laser chaos, Scientific Reports 7: 8772
(2017).
[22] M. Aono, M. Wakabayashi, Amoeba-inspired heuristic search dynamics
for exploring chemical reaction paths, Origins of Life and Evolution of
Biospheres 45 (3), 339-345 (2015).
[23] 青野真士, 大古田香織, ケミカルスペースを旅するアメーバ計算モデル,
現代化学9月号, pp.30-36, 東京化学同人社 (2017).

 

本講演に関する問い合わせは以下までお願い致します.

 

小松崎研究室
カートライト 亜子
北海道大学電子科学研究所
附属社会創造数学研究センター(日立北大ラボ)
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