センター長挨拶

ご挨拶

 社会創造数学研究センター(Research Center of Mathematics for Social Creativity, 略称 Math. for Social Creativity, 以下MSCと称します)は、平成27年4月に設置されました北海道大学電子科学研究所の附属センターです。
諸科学の「合意言語」である数学・数理科学は、あらゆる学問分野の横串としての機能を有しています。医工連携のさきがけとなった超短波研究所(1943年設立)に端を発している北海道大学電子科学研究所では、開所当時の異分野連携の精神は受け継がれており、「光」、「分子・物質」、「生命」、「数学・数理科学」に跨る異分野融合研究を推進し現在に至っております。
歴史を紐解きますと、社会の変革は数学・数理科学の発展と密接な関係にありました。例えば、ギリシャ時代の測量から幾何学が発展し、ニュートン力学から微分積分学、変分法が、また、産業革命における蒸気機関の出現から、熱力学、熱伝導に必要な偏微分方程式が、また、戦時中、英国のチューリングが暗号解読を目的としてコンピュータを開発したことに端を発し、アルゴリズム、帰納関数、離散数学などが発展してきました。重要なことは、例えば、ケプラーの法則を生む基礎を作ったティコ・ブラーエが残した膨大かつ精密な天体観測記録がなければ、ニュートン力学に始まる数学・数理科学の発展は存在しなかったか、もしくは非常に遅れたであろうことです。このように数学・数理科学の発展と社会の変革のあいだには「現象を観る」ということも極めて重要です。一方で、熱力学を解釈するための統計力学が依拠するエルゴード理論のように、ひとつひとつの分子の運動が観えないからこそ「研究者の柔軟な想像力に駆動されて」発展してきた数学・数理科学の概念も数多く存在します。

 MSCでは、このような社会の変革と数学・数理科学の発展の歴史を踏まえつつ、現象を観測して得られるデータそのものから数学・数理科学を展開する2グループと現象を俯瞰しつつ数理モデリングを主体として展開する2グループの計4つのグループ(専任教授3、専任准教授3、専任助教7、特任助教2)を構成しております。加えて、理学研究院(数学、化学、地球惑星科学)、情報科学研究科、工学研究院、先端生命科学研究院、人獣共通感染症リサーチセンター、経済学研究科、医学研究科、触媒科学研究所から計36名(平成27年11月4日現在)の先生方を兼務教員としてお迎えしております。MSCでは、このような全学的な体制の下、数学・数理科学者と異分野研究者間の個別連携から「複数の異分野融合を基盤とする」全体連携を構築し、数学・数理科学と周辺学問領域との「組織的な協働と出会い・議論の場」である“知のオープンファシリティ”を創出し、北海道大学における数理連携の中心拠点を構築していきたいと考えております。新しい社会を創造するに資する数学・数理科学の発掘とこれまで数学があまり展開されていない人文・社会科学領域や産業界との新しい異分野連携も積極的に推進していく所存です。数年のスパンでの研究計画においては、モノづくり、医療、光イメージング技術の進展など社会的な変化におけるニーズおよびシーズを探索し、新たなブレークスルーを創出し得る数学・数理科学研究を展開し、「数学・数理科学から始まるQuality of Life (QOL)の向上」を目指します。

 MSCは、次世代の若手リーダーの育成にも積極的に関わっていきます。統計数理研究所が中核機関となっている文部科学省科学技術試験研究委託事業「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」に旧数学連携研究センターの後任として参画し、数理連携ワークショップの開催などを積極的に展開する予定です。また、学内では、既に専任教員、兼務教員の多くの方々が参画しているリーディング大学院「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」との連携を緊密に推進するとともに、次年度以降は理学部数学科と共同で数理連携講座を開講する予定です。特に、そこでは、純粋数学を研究する若手研究者(ポスドク、院生、学部生)に「数学がもつ展開力・突破力を如何に周辺分野が求めているか」を説きつつ、周辺学問領域の未解決問題から新たな数学・数理科学を発掘する柔軟な姿勢を培っていただくよう努力してまいります。

 MSCは誕生間もないですが、旧数学連携研究センター(Research Center for Integrative Mathematics)を前身としており、世界トップクラスの有数の研究を展開している研究者が多くおります。専任教員(運営委員含)に限っても、2度のイグノーベル賞、日米欧など34の運営支援国から構成されるヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム推進機構からも4人のグラント賞受賞者(理研、東大に次いで全国3位)、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業/CREST「現代の数理科学と連携するモデリング手法の構築(平成26年度~)」、さきがけ「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働(平成26年度~)」の研究代表者2名(うち、ひとりはCREST「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索(平成18~27年度)」でも研究代表者を歴任)が在籍しております。ちなみに、MSCのロゴマークは、異分野領域と数学・数理科学(Mathematics)を連携(Integrate)する、という前身の旧数学連携研究センターの思想を反映させたものであります。また、専任教員13名のうち、4分の1に当たる3名が外国人教員であり、既に共同研究を実施している国際数理連携を発展させて、よりグローバルな国際数理連携拠点の構築を目指していく所存です。

 浅学菲才の私が、国内外の数学・数理科学と異分野の融合研究を推進するセンターのセンター長という重責を考えると身震いする想いでありますが、関係各位には、今後ますますのご支援、ご協力を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

平成27年11月4日
社会創造数学研究センター長 小松崎民樹