Research(研究紹介)

 

 ショウジョウバエの翅(ハネ)を顕微鏡にて詳細に観察すると,その表面には翅毛(しもう)と呼ばれる細かい毛が翅の根本から先端にむけて整然と並んでいます.これは,翅を構成する各細胞が細胞内に極性を作り,その非対称性により毛を構成する蛋白が特異的に局在するために起こる現象であると考えられています.
 この様な現象は翅だけでなく,上皮細胞のようなシート構造をつくるような系では普遍的に見られる現象で平面内細胞極性(planar cell polarity, PCP)と呼ぼれています(文献[1][2]).例えば,内耳の有毛細胞や,哺乳類の体表面の毛,魚の鱗なども平面内細胞極性によって個々の細胞の方向性のみならず,マクロな組織の方向性も決定されています. 
 近年,PCPは分子生物学的な研究が進むことによって,詳細な分子機構が分かりつつあります.文献[3]は2005年に雑誌Scienceに紹介されたもので,このようなミクロな分子の動態と,マクロなPCPを初めて繋げた画期的な仕事として知られています.誰もがこの報告を読んだ時,PCPのことはすべて分かったと思うほどでした.
 しかしながら,PCPのことはこれですべて終わりなのでしょうか?私達はそうは思いません.文献[1]では,いくつかのPCPの側面をシミュレーションにより再現することに成功していますが,細い分子動態を数式に盛り込むことに重きをおいているため,数式が複雑であるという短所があります.これは「PCPにおいて重要な働きをしているものが何であるのか」という本質的な問を解明するためには,障害となります.そこで,我々は分子の動態を単に盛り込むだけでなく,できるだけPCPの本質を損なわないように数理モデルを作成し,PCPを理解したいと考えています.
 この目的を達成するためには,数理科学者と生物学者が真に手を組んで,融合的に研究を行う必要があります.現在,私は秋田大学の実験生物学者の山崎正和先生(URL: http://www.gipc.akita-u.ac.jp/~arcbs/research/)とともに,この問題の解決に向け共同研究を行っています.既に国内外の研究集会及び数理生物学会ニュースレターなどで研究の経過報告を発表しています(文献[4][5]).

 

参考文献
[1]「平面内細胞極性」,碓井理夫・上村匡.蛋白質 核酸 酵素 Vol.50 No.6 (2005) p601-607.
[2] 「平面内細胞極性の不思議」,島田裕子・碓井理夫・上村匡.実験医学 Vol.21 No.4 (2003),p452-459.
[3] K. Amonlirdviman et al, (2005). Mathematical Modeling of Planar Cell Polarity to Understand Domineering Nonautonomy. SCIENCE VOL 307, 423-426.
[4]. 秋山正和, 山崎正和.2013 年度応用数学合同研究   集会予稿集. pp256∼261.
[5]. 山崎正和, 秋山正和.JSMB NewsLetter No73, pp14∼15.