Research(研究紹介)

我々の研究室では非線形現象や生命現象に対する数理モデリングや逆問題としての定式化,およびその数理解析に取り組んでいます.また,日立北大ラボを始めとする企業との共同研究も積極的に進めており,数理科学と社会の連携を推進しています.
非線形科学との協働研究:自己駆動系の数理科学
自己あるいは場の環境を変化させて運動する系を自己駆動系と言いますが,我々は自己駆動系に現れる運動を理論的に理解するために,実験グループと共同で数理モデルを構築し,数理モデルに対する数理解析を行っています.そこでは数値計算を積極的に利用し,数値分岐計算等を取り入れた計算機援用解析を行っています.これまでに表面張力変化を利用して運動する樟脳運動モデルの構築とその数理解析[N1]や複数の樟脳粒子の相互作用運動の数理解析[N2],反応拡散場での界面活性粒子の振動運動等の数理解析[N3]を行ってきました.最近では,反応拡散場ので複数液滴の相互作用モデリングや液滴運動を記述するフェーズフィールドモデルの構築等の研究を行っています.
皮膚科学との協働研究:表皮構造の数理モデリング
工事中
生命におけるリズム現象
生命系における非線形の振動現象は,現象それ自体も理論的に興味深いものであると同時に,生命において重要な役割を果たしています.振動子集団は同期現象を示すことが知られていますが,同期の形態は相互作用の構造に大きく影響されます.とくにノイズ下での位相振動子の同期状態の安定性は相互作用のネットワークに依存します[K1].また同期状態の単独では振動しないユニットが複数相互作用すると振動が生じることがあります.たとえば遺伝子のネットワークから生じる振動のパターン,とくに振動周期と振動の安定性はそのネットワーク構造に依存します[K2].また興奮的な性質を持つ化学反応場に非局所な相互作用のネットワークが埋め込まれたとき,ネットワークの密度によって場が興奮系から振動系に遷移します[K3].このような振動ダイナミクスとネットワーク構造の関係について研究を行っています.
偏微分方程式の逆問題とその応用
数多くの現象が偏微分方程式で定式化されますが,関心のある要素が観測できるとは限らず,それらを方程式の解の欠落データから同定する逆問題を研究してます.逆問題は通常,解の存在性・一意性・安定性のいずれかが破綻する非適切な問題であるため,方程式を解くという順問題より遥かに難しいです.よって,順問題の性質に基づき,特殊な解析手法によって条件付き適切性を証明したり,正
則化を代表とする数値再構成法を開発するなど,細心な注意を払いながら研究を進めています.特に近年は基本の楕円・放物・双曲型方程式のほか,非局所モデルの一種である0.5回微分を持つような非整数階発展方程式の逆問題に興味を持っています[R1].

 

参考文献
[N1] 長山雅晴, 樟脳運動の数理モデル, 数理科学, 12–17,2008年1月号, 長山雅晴,樟脳船の数理モデル,数学セミナー,8–12,2015年2月号, M. Nagayama, S. Nakata, Y. Doi and Y. Hayashima, A theoretical and experimental study on the unidirectional motion of a camphor disk, Physica D, 194(2004) 151-165.
[N2] K. Nishi, T. Ueda, M. Yoshii, Y. S. Ikura, H. Nishimori, S. Nakata and M. Nagayama, Bifurcation phenomena of two self-propelled camphor disks on an annular field depending on system length, Phys.Rev.E 92(2015), M. Okamoto, T. Gotoda and  M. Nagayama,Existence and non‑existence of asymmetrically rotating solutions to a mathematical model of self‑propelled motion, Japan J. Indust. Appl. Math. (2020).
[N3] M.Nagayama, Y.Doi and S.Nakata, “リン酸緩衝液上での樟脳酸運動の数理モデル”,京都大学数理解析研究所講究録,1313 (2003) 159-166, Y. Satoh, Y. Sogabe. K. Kayahara, S. Tanaka, M. Nagayama and S. Nakata, Self-inverted reciprocation of an oil droplet on a surfactant solution, Soft Matter 13, 3422-3430(2017).
[K1] Yasuaki Kobayashi and Hiroshi Kori, Synchronization failure caused by interplay between noise and network heterogeneity, Chaos 26, 094805(2016)
[K2] Yasuaki Kobayashi, Hiroyuki Kitahata and Masaharu Nagayama, Sustained dynamics of a weakly excitable system with nonlocal interactions, Physical Review E 96, 022213 (2017)
[K3] Yasuaki Kobayashi, Tatsuo Shibata, Yoshiki Kuramoto and Alexander S. Mikhailov, Evolutionary design of oscillatory gene networks, European Physical Journal B 76, 167 (2010)
[R1] Y. Liu, Z. Li and M. Yamamoto, Inverse problems of determiningsources of the fractional partial differential equations, in: Handbook of Fractional Calculus with Applications. Volume 2: Fractional Differential Equations, De Gruyter, Berlin, 2019, 411-430.