数学専攻・数学科における学際教育活動

北海道大学理学研究院数学部門では、社会創造数学研究センターの兼務教員を中心に平成29年1月に数理連携教育推進室を立上げ、多様な価値を深く理解し、高度に抽象化された数学的概念を自在に操り、論理的な思考によって現代社会における諸問題の解決に取り組むことのできる人材育成を推進しております。と同時に、令和2年4月に数学教室のホームページを抜本的に刷新し、数学専攻・数学科の活動を広く社会に発信するように致しました。更に、以下に紹介する諸々のプロジェクトを遂行する中で得られたノウハウを基に、令和3年度から数学科のカリキュラムを深化させ、より効果的な教育を実践できる体制を整えました。

ガリレオ・プロジェクト

ピサ大学、ピサ高等師範学校並びに聖アンナ高等師範学校により形成されるピサ大学システムとの部局間協定を基に、受講生の内省的知力・コミュニケーション能力・俯瞰力・社会における問題を探す力の向上・異文化への理解を深めることを主な目標とする、約2週間のサマースクールをピサと札幌において隔年で実施しています。本プログラムはこの趣旨に沿った各分野の最先端の内容の集中講義やアクティブ・ラーニングを柱とし、本学とピサ大学システム、更に平成30年度から参加したローマ・トルヴェルガータ大学の数学教室が共同で運営しています。本プロジェクトを通して、本学の大学院生が、将来、欧州の高度な意思決定に関わることが期待される若きエリートと直接的な関係を構築する機会を得ています。実際、本学のラーニング・サテライト事業、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)並びに数学部門からの資金的な支援を受けて、10名程度の数学専攻の大学院生を派遣してきました。(令和2年度のサマースクールはコロナ禍のため実施を見送りました。)一方、札幌で開催する年度には、北海道大学サマー・インスティテュートの枠組みでこれを実施しています。

日立北大ラボとの協働プロジェクト

株式会社日立製作所研究開発グループ基礎研究センタ日立北大ラボでは、様々な社会的課題を解決するための方法論の開発を諸分野連携によって推し進めています。特に、抽象的な問題を適切に設定する工程では数学的知見が欠かせません。この様な背景のもと、数名の数学専攻の大学院生がRAとして採用され、日立北大ラボの研究員との共同研究が進められています。これは、自分が所属している研究室の指導教員と行うセミナーとは独立に進められており、学内にいながら企業インターンを実践しているものと捉えることができ、まさに主体的かつ学際的な学びが実現されている例と言えます。

FindingMathプロジェクト

数学科で学ぶ数学では、抽象化や一般化が進み、もともと考察していた対象や現象との関係が見えにくくなり、何のためにこの数学を学んでいるのか、わからなくなってしまうことが起こり得ます。そこで、社会との繋がりを意識し、数学を学ぶ動機付けを与えるプロジェクトを立ち上げています。主に学部生を対象として、生物学、化学、計算機科学等において数学がどの様に活用されるのかを、社会創造数学研究センターの兼務教員が中心になって紹介する科目「数学総合講義」を集中講義形式で開講しています。最初は、上述したように数学科の学生向けと考えていましたが、実際には、他学科からの履修者も少なくなく、分野横断的な学びの実践にもつながっています。

博士課程教育リーディングプログラム「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」への参画

当該プログラムでは自身の研究分野における圧倒的専門力に加えて、俯瞰力・内省的知力・国際的実践力・フロンティア開拓力の涵養に力を入れており、理学院数学専攻もこのプログラムに参画しています。具体的な活動としては、数学専攻以外のプログラム生も知っておくべき数学的知識を座学で学ぶ「数理物質科学I、II」を開講し、それを基に「数理物質科学III」ではアクティブ・ラーニング形式により、相互に研究発表を行い、それに関する討論を異分野の視点を交えて実施しています。加えて、プログラム生は、異分野の研究内容や文化を学ぶために、修士課程1年の2学期に研究室を移籍して、異分野の研究室に1カ月から2カ月間配属される「異分野ラボビジット」を体験します。これらの活動において、数学専攻の教員が他学院・他専攻の学生の指導に携わる機会も増えています。
なお、令和2年度で当該プログラムへの文部科学省から補助期間は終了しましたが、本学の支援を受けて継続的に運営されており、上記の数学系科目も大学院共通科目として内在化されました。特に「数理物質科学I、II」にはプログラム生以外の異分野の学生の受講が一定数あり、諸学院横断的な教育に寄与していると考えられます。

「スマート物質科学を拓くアンビシャスプログラム」への参画

上記プログラムは令和3年度よりスタートしたものであり、「スマート物質科学」とは広い意味での物質科学に数理科学・計算科学・データ科学を融合させることで実験のみの研究手法から脱却し、研究のスピードを格段に向上させイノベーションを引き起こすことが期待される新しい研究分野です。当該プログラムに参加する数学専攻の学生は専門分野の研究のみならず、スマート物質科学力とトランスファラブルスキルを修得することができます。こうした能力は、DX博士人材フェローシップやアンビシャス博士人材フェローシップに採択された学生が身に付けるべきものとオーバーラップするものでもあることから、数学部門としてもその運営に協力しています。